真輔の風
祖父の視線の向こうには…
祖父が二年かけて作った、という長い南側の塀と、
玄関を、行ったり来たりして、
中を窺っている若い男。
が、塀は高くて頑丈なブロック造りだから容易には中が見えない。
飛び上がっては一瞬、中を覗いて消えている。
そして表玄関の格子戸から覗くものの、
それこそ目的のもの…
座敷側に出した縁台で、
犬の世話をしている真輔が見えるわけがない。
ブザーを押せば良いものを… と、
祖父には滑稽に映っているのだろう。
そして真輔も、その視線を追った。
「あいつだ。じいちゃん、あとを頼むよ。
ジロウだけだから。」
「真輔、お前の部屋で良いだろう。
外より中で話せ。」
さすがに年の功、
栄作は外で話をしようと飛び出す真輔に声をかけた。
そうか… 人目は無いが、
念のため人目につかないほうが良いかも知れない。
何のために。
それは… まともには言えないが、
とにかく龍雄がやられた後だから慎重に行動しなければ。
と、真輔はまるで自分の将来の夢、
探偵にでもなった気分になっていた。
滑稽な行動の訪問者はあの山田信一だった。