真輔の風
「広い家だな。」
真輔に呼び止められ、安心したような顔をして、
誘われるままに玄関に入った信一の第一声だった。
そして二階にある真輔の部屋に入った。
八畳の洋間に、
足の踏み場の無いほど無造作に本が転がっている。
見かけは、少なくとも乱雑好きには見えないが…
イメージが違う。
読んでしまった本は一応、
壁一面に作られた書棚に並べているようだ。
それにしてもこの本の量、
それも推理小説の類ばかりのようだ。
「全部推理小説みたいだけど… 」
信一はその本の多さ、
その部屋に所狭しと集められているものに驚いている。
ホームズが着ていたようなコートや帽子がハンガーに、
望遠鏡、顕微鏡、ホームズの等身大のポスター写真などが床に、
本に隠れそうになりながら辛うじて存在感を見せている。
一方の壁には、おもちゃだろうが…
いろいろな形のナイフや銃が、
おまけにミニカーのコレクションまで飾りケースに並べられている。
どう考えても高校生の部屋、と言うより…
まさに、子供のまま大きくなっている、と言う感じだ。
ただベッドの上だけはすぐ眠れるようにか、何も置かれていない。
初めて部屋に入った信一は…
その雰囲気に、
見ているだけで不思議な国に紛れ込んだように、
いや、不思議の国のアリス、ではないが…
どこと無く気持ちが圧迫されている。