真輔の風
信一はためらいがちに…
尻のポケットから見慣れた生徒手帳を出した。
「これ… 逃げた女が落として行った。」
「学校のじゃあないか。」
そう言って中を見た真輔は…
信じたく無いものを見てしまったような気になった。
昨夜から今朝にかけて真輔の脳裏をよぎった想像が…
少し前まで祖父と話していた、援助交際、と言う言葉が浮かんできた。
「一年の吉沢百合子だよ。
あいつ、ちょっと噂があったが… まさかなあ… 」
真輔が声を出す前に、信一が囁くような小声で言った。
「じゃあ、龍雄は、女が吉沢百合子と知って。」
「多分… な。ちょっと因縁があるから…
龍雄は悪ぶっているけど、根はいい奴で…
俺は友達と言うより、
一緒にいて守ってもらっているような気分だから、
なるべく一緒にいたいと思っている。
昨年の夏ごろだったかなあ…
何人か集って須磨の海岸で花火をして騒いでいたら若い女が二人来て…
一緒に遊びたいと言った。
その一人が吉沢百合子。本当はまだ中学生だったが、
まるで短大生のような服を着て…
それにいい体をしていた。
俺はわからなかったが龍雄は分かっていたみたいだった。
だけど… あいつら、自分たちのほうから…
俺は、その… 何というか…
あっちのほうはまだ経験が無かったし…
その… その気になれなかったから帰ったけど… 」