真輔の風
そう考えた栄作は…
真輔には構わずに外出の用意を始めた。
そして、よしのに何か囁いている。
「じいちゃんも出かけるのか。」
「ああ、わしも用があったのを忘れていた。
ちょっと出かけてくる。」
そう言って愛用のパナマ帽をかぶり、
珍しくステッキを持って出かけて行った。
ステッキは… 足腰の達者な栄作には必要は無いのだが、
いざ、というときの木刀の代わりだ。
真輔が出かけようとしていた時、
祖母が、前に景品で貰ったというリストバンドを持ってきて、
手首を隠すように言った。
そして、小遣いだと言って、
小さく折りたたんだ千円札を胸ポケットに入れてくれた。
小遣いは毎月五千円を貰っているが… 祖母がよくする行為だ。
祖母はここに住むようになってからモダンな生け花を教えている。
真輔が物心ついた頃には教えていた。
と言っても、月に二回、水曜日の、それも午後だけ。
十数名の人が通ってきている。
その時,真輔は助手ではないが、
時々は、祖母の役に立とうと,
稽古の済んだ人には奥の部屋にお茶を運び、
来たところの人には材料の花を稽古部屋へ運ぶ。
別に頼まれたわけではなく、
祖母の側にいたくて自然と出た行為だった。