真輔の風
ブザーを押したら吉沢百合子の母、和子が出て来た。
仕事から戻ったところのようだ。
「あの… 百合子さんと同じ学校の小田切真輔と言います。
百合子さんに会いたいのですが。」
「いませんよ。」
和子は面倒くさそうな顔をして中へ戻ろうとしている。
「あの… どこにいるのですか。」
「知りません。あの子がどこで何をしていようが興味ありません。
もう良いかしら。忙しいの。」
「でも… おばさんの子供のことなのに… 」
「まあ、何を言っているの。
高校生の子供が外で何をしていようが、
そんなことまでいちいち詮索などしていないわよ。
大体あの子は問題児、不良なのよ。
あの子のために兄や妹がどれだけ迷惑がっていることか、
家にいないほうが良いぐらいなのよ。」
百合子の母は、そんな話はしたくない、
という心をあらわに顔に出して真輔を睨むように見た。
「そんな… おばさんは心配していないのですか。
おばさんも自分の子供を不良だと思っているのですか。」
「当たり前でしょう。
私の言う事など聞かないし、警察には補導されるし、
あなただって知っているのでしょう。
とにかく顔を見ていないから戻っていないのよ。
どこかにしけ込んでいるのでしょ。
友達もろくなものではないようだし…
あなたも友達なの。
ちょっと感じが違うようだけど…
どんな関係の友達。」