真輔の風

その時の真輔… 

無意識に自分と百合子を比較していた。


自分は子供の頃から入退院の繰り返し。

他の子供のような
親との楽しい思い出は記憶に無い孤独の中にいた子供。

と自分を哀れんで、
おかれている状況下でただ生きて来た。

そして人からは、

祖父母に育てられた病弱でかわいそうな子、

と見られていたらしいが、

今になればその実は、
たくさんの愛に育まれた幸せな子だった。


吉沢百合子は… 親兄妹が揃っていて健康なのに、

今の母親の態度は理解出来ない。

彼女は家に居場所がない。

困ったことが起きても家族には何も言えない環境の中にいるのだ。

隠れる場所も無い。


しかし昨夜、
高校一年生の彼女がどこへ行って夜を明かしたのだろう。 

とにかく探し出さなくては… 

ポケットに入っている生徒手帳、

これは彼女に直接手渡す。


それで真輔は午前中に友達になったところの信一に電話した。

龍雄が入院している病院の前で待ち合わせて、

龍雄の様子を見てから二人で捜すことにした。

< 75 / 155 >

この作品をシェア

pagetop