真輔の風
その時の真輔…
無意識に自分と百合子を比較していた。
自分は子供の頃から入退院の繰り返し。
他の子供のような
親との楽しい思い出は記憶に無い孤独の中にいた子供。
と自分を哀れんで、
おかれている状況下でただ生きて来た。
そして人からは、
祖父母に育てられた病弱でかわいそうな子、
と見られていたらしいが、
今になればその実は、
たくさんの愛に育まれた幸せな子だった。
吉沢百合子は… 親兄妹が揃っていて健康なのに、
今の母親の態度は理解出来ない。
彼女は家に居場所がない。
困ったことが起きても家族には何も言えない環境の中にいるのだ。
隠れる場所も無い。
しかし昨夜、
高校一年生の彼女がどこへ行って夜を明かしたのだろう。
とにかく探し出さなくては…
ポケットに入っている生徒手帳、
これは彼女に直接手渡す。
それで真輔は午前中に友達になったところの信一に電話した。
龍雄が入院している病院の前で待ち合わせて、
龍雄の様子を見てから二人で捜すことにした。