真輔の風
「そんなところだと思ったよ。
俺も他人のことは言えないけど…
あいつは出来の良い兄妹に挟まれているから大変だ。
親も出来の良い子には優しいが… 」
「かわいそうだな。
母親のイメージが変わってしまった。」
真輔は百合子の母親の態度が頭から離れなかった。
真輔の描いていた母親とは、もっと違うもののはずだった。
「イメージ。」
「うん… 僕は母を知らないから、
勝手に母親のイメージを作っていたけど… 」
「真輔の母さん、どうした。」
「母は僕を生んですぐに死んだ。だからここに来た。
じいちゃんたちがここに住んでいたから。
父と姉は東京だ。」
何となく真輔の口調が冷ややかなものに変っている。
無意識だが、父や姉の話はあまりしたくなかった真輔。
そしてそれを信一は見逃さなかった。
「ごめん… 変なことを聞いてしまって…
じゃあ、そのうちには東京へ帰るのか。」
「いや、帰りたくない。
父は… 大学は東京で、と思っているようだけど、
ここにも大学はたくさんあるし、
東京には興味がない。
分かるだろう。
僕は初めからここで暮らしていたのだから、
今さら親が東京、と言ってもピンと来ない。」
「まあ、そうだけど…
親父さんも一緒に暮らしたいのではないのか。
再婚しているのか。」
「いや、姉と暮らしている。」