真輔の風
「姉さんはいずれ結婚して離れていくから…
やっぱり寂しいよ。」
「じいちゃんたちのほうが好きだから仕方がない。」
「そうか… 真輔が東京へ行ってしまうと、
今度はじいちゃんたちが寂しくなるな。
真輔も大変だな。」
そんなことは考えた事もなかったが、そういわれれば、
なるほど… 大変だ。
「信一のとこは。」
「その点、うちは気楽だ。
両親と姉一人、あ、同じだな。
親は大工。
姉は結婚して、婿を引っ張り込んで大工の見習いをさせている。
家から離れたくない、と言って裏に一部屋造ってもらい、
押し掛け同居をしているから…
親父も義兄が大工になりたい、
と言ったから、悪い気はしなくて、
お袋は生まれてくる孫のために、と張り切っている。
俺は… 高校の間は好きにさせてもらって、
卒業したら働きながら建築関係の専門学校へ行こうと思っている。
それからは真剣に学んで、
俺は図面の描ける大工になりたい。」
信一は龍雄にしか話したことのない自分の夢を…
初めて話らしい話をしたところの真輔に、
自然体で話している。
信一にとっては不思議な気持だが、
何となく信じられる雰囲気がある真輔だ。
「お前、大工になるのか。」
「ああ、親父が喜ぶし、俺も嫌いではない。
でも、バイクも好きだから…
真輔の親父さんは何をしている人なのだ。」
「弁護士だよ。姉さんも… 」
「へえ、すごいな。じゃあ真輔も。」
「興味ないよ。僕は探偵になる。」
真輔はまじめな顔をして、当然のように口にした。