真輔の風
龍雄の大怪我で、自分のことを母親として後悔している。
真輔の言葉で信一は慌てて肯いている。
「そう言えば… 真輔君も昨日… 」
真輔の声で、母親は改めて二人の顔を見つめている。
昨夜、この真輔は祖父母と共に龍雄に会いに来た。
その時、確か怪我をしているような事を、
おばあさんが話していた事を思い出していた。
「はい。あいつらと… 信一が知らせてくれて…
でも、逃げられてしまった。」
「信一のことはよく知っているけど…
龍雄が真輔君と友達だなんて知らなかったわ。
真輔君、大きくなったわねえ。」
そう言って、龍雄の母はまじまじと真輔の顔を見ている。
その頼子の言葉…
真輔にとっては想定外のものだった。
こんな人は覚えていない。
「おばさん、僕のことを知っているのですか。」
「ええ、赤ちゃんの時から知っているわよ。
おじいさんがよく背負っていたわ。
自転車に乗りながら…
以前はあまりお店がなかったから、
うちの店まで買い物に来てくれて…
時々、おばあさんと鉢合わせして、
おじいさん、叱られていたわよ。
すぐ連れて出る、と言われていたみたい。
おばあさんもおんぶしたかったみたいで…
真輔君を取り合っていたみたい。
可愛くてたまらなかったのね。
今でもそうなのでしょ。」
と、頼子は目を細めて笑みを浮かべている。