真輔の風
いきなり話が真輔の事に変り、
頼子は昔を思い出すように微笑んでいる。
それまでは、龍雄の事だけに気持が集中し、
恐怖や後悔まで感じていた頼子。
こうして真輔の昔話を思い出せば…
目前の恐ろしい心理状態から一時でも開放されたようだ。
その顔から、よい気分転換になったように感じられた。
「はい、そうです。」
「まあ、正直な返事ね。」
そう言って頼子は声を出して笑った。
涙が残る顔に浮かべたその微笑は…
昨日からの緊張が一瞬でもほぐれた事を物語っている。
「子供の時は弱かったから… 」
「そうね、噂は聞いていたわ。」
「龍雄が背負ってくれた… 」
その時真輔は龍雄との出逢いを頼子に話そうと思った。
龍雄は喧嘩ばかりしていたのではない、
と言う事を母親に伝えようと思った。
「龍雄が… そんなこと聞いていないけど…
まあ、まともに話をしていなかったから…
でも、いつの話。」
頼子は意外そうな顔をして真輔を見つめている。
「僕が五年生で龍雄が六年生の時。
咳き込んで座っていたら背負って家まで運んでくれた。
高校で龍雄を見かけて嬉しかったから声をかけたけど、
初めは無視された。
文化祭の後から友達になった。
そしたら龍雄は留年で同じクラスになって、僕は嬉しかった。」