真輔の風
「まあ。私は親として留年なんて恥ずかしくて嫌だったわよ。」
屈託なく話す真輔を見て頼子は苦笑した。
「うん… 龍雄もそう言っていたけど僕は嬉しかった。
今日は信一とも友達になった。」
「えっ。」
その言葉に頼子は聞き返そうとしたが、
隣で信一が何やら合図をしている。
後で信一から聞けばいいか。
さすがに長年客商売の頼子、
すぐに頭を働かせて何事も無い顔をしている。
「そう、龍雄が真輔君を… 何にも話さなかったわ。
私が話す機会を与えなかったのね。」
「あの時は、龍雄のことを大きなお兄さんのように思っていたけど、
今は同じ友達で嬉しい。
僕も背が伸びたから… 」
真輔はおばあちゃんっ子だからか、
普通このぐらいの年齢の青少年はぶっきらぼうで、
話しかけられても言葉少なく返事をする。
真輔は大人の女の人と話をすることは別段嫌ではない。
しかし無意識にどうも子供っぽい話し方になってしまう。
もっとも、大人の女は、それ程の違和感はないようだ。
信一は… さっきの玄関での話もそうだが、
どうも真輔の全体像がつかめないから黙って聞いているだけだ。
「お、おい。」
話をしていたら、信一が慌てたような声を出した。
見ると… 龍雄が少し動いた。