真輔の風
今までは周囲から、
不良というレッテルを貼られた目でしか見られていなかった龍雄。
それが真輔の祖父母は、
自分を孫の友達とばかりに、
喜んで受け入れてくれている。
悪い気はしない。
いや、親にさえまともには受け入れてもらえなかった龍雄にとっては
初めての体験、
嬉しいものだ。
だから真輔の家族とゴタゴタは起こしたくない。
制服はあるが着なくても構わないという校風、
勝手に早引けしても、服装で面倒はない。
カバンは駅のロッカーだ。
そして、初めての行動に興奮している真輔と共に歩いているところで、
この光景に出くわした。
「どうした。トラブルか。」
体の大きな、にきび面の龍雄がすごんだ言い方をして声をかけた。
見知らぬ相手に向うときの龍雄の態度なのだ。
「うるさい。さっさと行ってしまえ。」
男は女の髪を掴んだまま中へ入ろうとしている。
女は… それが龍雄と真輔とわかると、
驚いたような顔をして、
顔を隠そうとした。
龍雄はさっき、吉沢の妹だ、と言っていた。
真輔には誰のことかまるっきりわからない。
が、龍雄はどんなトラブルなのか分かっているようだ。