真輔の風
しかし、その時茜はいなかった。
店をしているから夕食は九時以降。
それまでには帰るだろうが…
行き先はわからない、ということだった。
夏休みを前にしてみんな気が楽になっているのだろう。
出なおそう、と店を出たとき、
すれ違いざまに客らしからぬ男女が入って行った。
どう見ても普通の客ではない。
違和感を抱いた真輔は、
立ち止まって店の中を覗いている。
すると、二人を見た昌代の顔色が変わった。
「今日は返してもらえるかしら。」
「あ、あの… それが… 」
それは真輔が知っている明るい昌代ではなかった。
男女を見た途端、昌代の顔が青ざめたものに変わり、
気のせいではなく、はっきりと怯えているような様子が伺えた。
が、話している派手な女の隣で、
ニヤニヤしている男を見て、
真輔は思い出した。
昨日の一人だ。
写真はなかったから準構成員と言う立場の奴だ。
どうしてあいつがここに。