一方通行な恋心
「その想いを僕に向かせる気はない?」

「えっ!?」

 私は目を開いて、西條さんの顔を見つめた。

 この人は何を言っているのだろうか?

「一途な女性に愛されるのってきっと気持ちいいんだろうなあって」

 西條さんがテーブルに手をついて、私にぐっと身を寄せてきた。

 私は顎を引いて、尻を動かして少しだけ西條さんから遠ざかる。

「あの……私、なんていうか」

「冗談だよ。そんな一言で、諦められるなら、もっと早くに違う男性に目を向けているはずだからね」

 西條さんがくすくすと笑って、メニュー表を差し出してきた。

「新しい飲み物を選びなよ」

「あ……ありがとうございます」

 私はメニューを受け取ると、視界に入っている西條さんをメニュー表で隠した。

 西條さんって心臓に悪い人だ。

 
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