幕末仮想現実(バクマツバーチャルリアリティー)
「あの蛤御門から生きて帰れただけでも、芽衣は運が良かった」
…あの戦い、やっぱ、長州が負けたんだろうな…。っ!
「久坂さんはっ」
「…久坂は、腹を切った」
「っ!…そうですか」
長州藩って、なんなんだろう…。
幕末の悲哀を背負ったヒーローって、新選組のはずよね。
あたしだって、授業で習わなくったって『沖田総司』『土方歳三』なんて名前は知ってる。
いつもカッコイイ俳優さんがやってるもん。
長州藩は偉そうにしてる嫌なやつのイメージだった。
なのに、なんなんだろう。
やることみんな上手く行かなくて…。
幕府も薩摩も会津も新選組もみんな敵で…。沢山の人が亡くなって…。
どうやって立ち直れるんだろう…この藩は。

「ところで、芽衣。お前、その男の格好は止めないつもりか?」
男の格好?もしかして、あたし、ちょんまげ結ってるとか?
あ、違う。この手触りは…、ポニーテールだ。よかった。
「確かに、奇兵隊は身分は問わん。しかし、女はのう…」
「そんなのおかしい。それに、稔麿さんや、久坂さんの見れなかった長州の未来を、あたしも高杉さんと一緒に見届けたいんです。あたし、奇兵隊に入りますっ」
なんか、思わずとんでもない事言っちゃった。
「…そうか。わかった。では、そのように扱おう。後悔してもしらんからな」
「後悔なんか、しません」
してる、してる、してるっ。
ああ、あたしって、変なところで、負けず嫌いなのよねっ。
「では、これからは、『芽衣』ではなく、『織田』と呼ぶことにしよう」
「はい」
「まずは傷を治す事じゃ。ゆっくり休め」
「はい」
…行っちゃった。

ん、ちょっと、肩が痛い。

もう、透明人間じゃないんだ、あたし。
なのに、勢いとは言え、奇兵隊に入るなんて言っちゃって、この先、どうなるんだろう。
この、超逆境を乗り越えて長州が偉そうに出来るようになるまで、生きていられるのかなぁ…。
それに…あたしと、高杉さんって、どういう関係なんだろう。
愛人…じゃあなさそうよね、どう考えたって。
弟子ってとこかな。
あんまり深く考えるのよそ。
大体、透明人間じゃなくなった事だって、こっちの現実に入っちゃった事だって、わけわかんない事ばっかなんだし。
高杉さんも、ゆっくり休めって言ってくれたし、ちょっと眠ろう…。
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