幕末仮想現実(バクマツバーチャルリアリティー)
下関に着くと、高杉さんは前の時と同じ妙な格好で交渉に臨んだ。
今回は、前の時みたいに、何かあっても、高杉さんたち三人のせいにされないように、井上さんが、藩のお偉いさんを引き連れて来ている。

なんだかんだと話が進み、いよいよ、最後の調印の時がきた。
これで、高杉さん、いえいえ、宍戸刑馬の仕事も一段落着くね。

って思ったら、まだ、なんか言い出したよ、この外人。
「彦島を抵当として租借したいと言ってきてます」
彦島?
長州にある島の事かな。
租借ってことは、借りるって事で、この場合、つまり、植民地にされるってことだ、きっと。
ほら、前に、奇兵隊創設したとき、白石さんに言ってたじゃない、上海で欧米列強による、半植民地化の現状を見て来たって。
「…」
そんなのダメよ。
高杉さん、黙ってないで、今こそ強気でダメだって言わなきゃっ!
「…そもそも、日本国なるは」

は?

「高天が原より始まる。はじめ国常立命ましまし、つづいて…」
た、高杉さん?
狂った?
何言ってんのか、わかんないよぉ。
伊藤さんも、井上さんも、目が点になっちゃってる。
え?天照皇大神?
なんか、日本の成り立ちをはじめっから語ってるみたいだけど…。

…。

かれこれ、一時間以上は、喋ってるんじゃないの、一人で。
あ、ウンザリ顔の外人がなんか言った。
「租借のことは、撤回するそうです」
え?撤回?
「ああ、そうですか」
あ、高杉さん、さらっと話を止めた。
あ、もしかして、相手を嫌にならせて、諦めさせるのが、延々と喋った狙いだったの?
そうよね、長州は基本負けてるんだから、ヤミクモにダメだって言っても聞き入れてもらえるはずないもんね。
高杉さんの頭ん中ってどうなってんだろ。

高杉さんの話が止まったところで、彦島の租借の件は抜きにして、調印が行われた。

これで、とりあえず、四国連合艦隊のほうは一件落着ってとこかな。
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