幕末仮想現実(バクマツバーチャルリアリティー)
「織田っ!」
「はいっ!」
ん?今のは庭からじゃなかったような。
「ここじゃ」
高杉さんの部屋の方だ。
「失礼します」
「そこに座れ」
「はい」
なんだろ、真面目な顔しちゃって。
「織田、今、長州がどうなっちょるか、わかっちょるか」
「…」
「何を言うても、怒りゃあせん。正直に言うてみぃ」
「…はい。外国とも講和したし、幕府にも全面降伏したので、戦わずして、平和になった…、と」
「…」
違ったかな?
「確かに。織田の言う通りじゃ」
よかった、合ってた。
「八月十八日、京都を追い出されてから、幕府にひたすら恭順する姿勢の俗論派が台頭しちょる。池田屋、蛤御門と、正義派の行動は裏目裏目で、ついに藩の重役は皆、俗論派じゃ。奴らが幕府に頭を下げまくったおかげで、織田の言う通り、幕府軍に攻め入られることはなくなった」
正義派?藩の重役は俗論派?
じゃ、今のこの平和な状況は俗論派の考えでなってることで、高杉さんの考えとは違う?
「確かに、幕府に恭順の意を示しちょきゃあ、とりあえず、平和じゃろう。じゃけどのう、幕府は、外国の恐ろしさもしらんし、かと言って、対等に付き合う事もようせん。いわば、日本っちゅう小さな井の中の蛙じゃ。」

そういえば、幕府は外国と不平等条約を結んだって伊藤さんが言ってた。

それに比べて長州藩は攘夷だって外国に戦いを挑んで、結果、ボロボロに負けちゃって、講和したけど、高杉さんがあくまでも『負け』は認めなかったし、長州が不利になるような条約は結ばなかった。
「今、時代は変わろうとしちょる。じゃが、このまま外国の本当の力も知らん幕府に日本を任せちょったらどうなる」
どうなる?
「日本が乗っ取られるのも時間の問題じゃ」
え?
「時代を読めん幕府は終わらせんにゃあ、ならん」
っ!
「幕府を終わらせて、全く新しい日本を作らんにゃあならん。そのためには、まずは、長州が立ち上がらねばならんのじゃ」
「なぜ、長州が?」
「長州は、元々、外様大名。この三百年いつか徳川を倒そうと密かに狙っちょったまで」
「え?」
「じゃけど、三百年は長すぎた。もはや、敵は徳川ではない。日本を乗っ取ろうとしちょる外国じゃ」

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