幕末仮想現実(バクマツバーチャルリアリティー)
「いよいよじゃのう」
え?今、男の人の声がしたっ。
『じゃのう』って、どこの言葉?
あ、こっちに来たっ。
あたし、見つかったら、どうなっちゃうんだろっ。
やばいよぉ。
もう、こうなったら、泣いてる場合じゃない!
「この海峡を通る外国船は一隻たりとも逃しゃあせん」
「当たり前じゃ。日本人が皆、幕府のように腰抜けばかりじゃと思われちゃあ、たまらんけぇの」
あれ?
あたしの目の前まで来てるのに、この二人、あたしの方をまるで見てない。
視野に入ってないって事?
それとも、あたしの姿が、見えてない?
それより、外国船を逃しゃあせんってなんの事?
幕府って言ってたみたいよね。
幕府、海峡、外国船…。
あ〜、あたし、連想ゲームって苦手なのよね。
ん〜、わかんないっ。
けど、このちょんまげじゃない方の人、どっかで見たような…。
「待ちに待った五月十日じゃ。そういえば、高杉さん。将軍が賀茂神社に供奉に行った際に、幕吏に追っかけ回されたと聞きましたが、何かあったんですか?」
「はははっ、あれか。あれは、将軍見物も暇じゃったけぇ『いよーっ、征夷大将軍っ!』て、一声かけてやっただけじゃ。そしたら、新選組が追っかけてきやがった」
「ははっ、そうでしたか。でも、あんまり無茶はせんでくださいよ、高杉さん」
ちょんまげじゃない人が高杉…。
高杉、高杉、どっかで聞いた、高杉…っ!
高杉晋作だっ!!
吉田松陰の塾の人だぁ。
って事は、ここは長州で、山口県なわけだから、ここから見えるあの海は、もしかしてら関門海峡って事?
あたしってば、幕末の長州に入り込んじゃったの?
けど、はははっ、高杉晋作って、教科書に載ってた通りの馬面だね。どっかで見た事あると思ったはずだ、はははっ。
じゃ、もう一人のジャガイモっぽい顔の人は誰だろ?