僕の愛した生徒
僕は慌てて彼女にまわしていた腕を解き
藤岡を突き放した。
「わっ、悪い…」
藤岡はただ首を横に振るだけで
何も言わない。
気まずい空気が流れる教室。
そこに
廊下から女子生徒の笑い合う声が響いた。
僕の前には俯いたままの藤岡。
僕の目に藤岡が手にしているものが飛び込んできた。
「できたのか?」
「えっ?」
動揺が隠せない藤岡は
僕の声に戸惑って、言葉の意味を探すように僕を凝視した。
「それ」
僕は藤岡の手元に視線を移す。
藤岡も僕の視線を追って自分の手元に目をやった。
「あっ、はい…」
藤岡は慌てるように僕にそれを手渡すと
ぎこちなく帰る支度を始めた。
何も言えない僕は
藤岡のその姿を見つめるだけ。
夕焼けに染まった教室。
「先生、さようなら」
挨拶する藤岡の表情は逆光になり
よく見えないけど
微笑んでいる…?
僕はそんな気がした。