僕の愛した生徒
奈菜が
あいつと付き合っている…か……
“冗談じゃない!”
そう思う。
だって実際、奈菜と付き合っているのはこの僕で……
…でも、そんなことを
言えるわけ…ないよな。
僕は大きな溜め息をついて、二人の様子を眺める。
ふざける秋山を見て、楽しそうに笑う奈菜。
あの二人が付き合って見えるのも当然か。
端から見れば、それが自然なわけで、僕たちの方が不自然なんだから。
きっと、あれが高校生である奈菜の、本来あるべき姿なんだろうな。
奈菜も僕と付き合っているよりも
同年代の男と付き合った方がいいのか?
僕はもう一度、大きな息を吐いて
その光景から目を逸らし再び歩き始めた。
その日の放課後。
菜奈は僕の車の助手席に座って、
窓の外を流れる景色を眺めていた。
車内はFMから流れる曲だけが響く。
時折、助手席に目をやると
月明かりに浮び上がる奈菜の横顔が少し寂しそうに見えて、
「菜奈」
と、僕は声をかける。
しかし、返事は返ってこない。
何度目かの呼びかけにようやく
奈菜は気がついて“なに?”と
微笑む。
「最近どうした?
悩み事でもあるのか?」
「どうして?何もないよ。
それとも、何かあってほしい?」
奈菜はイタズラに笑って見せた。
「いや…最近、なんか元気がない気がしてさ」
「そう?そんな事ないよ。
元気一杯」
そう言いながら、奈菜は顔に作ったような笑顔を貼り付けた。
「何かあれば、いつでも言えよ」
「うん、ありがとう」
奈菜はそう微笑んで、
再び窓の外を眺めた。