僕の愛した生徒
すると
奈菜は“今日の秀、ちょっとコワい”と、顔を近づけていく僕を拒むように肩を押す。
僕は“コワくないから”と
苛立ちを隠し、冷静を装いながら
肩を押さえる奈菜の腕を解こうとした。
「ねぇ、もしかして……
秀…秋山君に妬いてるの?」
そう訊いた奈菜の声は
何かを期待するように僅かに弾んでいて
カーステレオの光に浮かび上がる顔には、少しだけ嬉しさのようなものが含まれていた。
…僕が妬いてる?
あぁ、そうかもな。
自分でも大人気ないと思うけど
17歳も年下の高校生に妬いてるよ。
奈菜は僕に秋山とのことをペラペラと楽しそうに話すし……
でも、僕は
「そんなわけないだろ。
なんで僕が奈菜が友達と話をしていたくらいで妬くんだよ?」
余裕の笑を作って見せる。
奈菜の顔からは、さっきまでの表情がスッと消え
肩を落とすようにして
目を伏せた。
そして、弱々しく
「そっか…そうだよね。
秀が妬くわけないよね……」
と、呟き俯いた。
「奈菜?」
僕が声をかけると奈菜は顔を上げて静かに言った。
「秀って、束縛とか全くしないよね」
「そうか?
でも“付き合ってる”ってことが
一番の束縛じゃないか?」
僕の言葉に
奈菜は少しの間を取って
“そうかもね”と微かに笑った。
そんな奈菜の口を僕が再び塞ごうとする。
奈菜はもう抵抗を見せずに、
静かに目を閉じた。