僕の愛した生徒
学校は冬休みまで残すところ
あと数日。
仕事の山場を再び迎える僕は
奈菜との時間を惜しみつつ、
仕事に集中しようとする。
しかし
校内でよく目にするようになった
奈菜と秋山の姿と、ふと思い出す藤岡さんの言葉がそれを邪魔した。
二人の姿を見かける度に
僕の心は掻き乱され、
藤岡さんの言葉が脳裏を掠める度
僕の胸を締め付けた。
二人で過ごす僅かな時間も
奈菜は相変わらず
無邪気な笑顔を見せる事はなく、どこか寂しさを漂わせていて、
僕も無意識に溜め息をついて
それを奈菜によく指摘された。
きっと
僕たちは少しずつ、すれ違っていく心を感じながら
それでもお互いを求めていた。
そして
今日で二学期も終わり。
この日の放課後は奈菜と視聴覚室で会う約束をしていた。
僕は約束の時間よりも早めにその部屋へ入り、そこから入る小さな準備室を暖めて待つ。
そこへパタパタと速い足音が近付いてきて、それは部屋の前でピタリと止まった。
その直後、静かに開く戸の音がして、続いて
「失礼します」
と、遠慮がちな声がした。
それが奈菜だと確信し
準備室のドアから顔を出す僕。
奈菜は息を吹きかけながら両手を擦って、戸の側に立ちキョロキョロしていた。
「奈菜、こっちだよ」
僕は手招きをして奈菜を準備室へと誘う。
近付いてくる奈菜は
巻いているマフラーに顔を半分うずめて、
そこからは赤い鼻がチラリと覗く。
僕はそんな奈菜を
準備室のドアを閉めて鍵をかけると直ぐに抱き締めた。