僕の愛した生徒
3月に入ってすぐに卒業式は行われ、
修了式までは、仕事も会議の連続で、生徒たちは学校が休みになることもしばしば。
だから、奈菜と顔を合わせることも減った。
しかし、部活をしている奈菜を
会議中にも関わらず僕の目が捉え
視線は奈菜を追いかける。
その日、窓の外は風花。
まるで桜の花びらのようにちらちらと舞う雪を、奈菜は手のひらに乗せようと両手を広げている。
その屈託のない姿に、初めて奈菜を見かけた日が蘇る。
桜の舞い散る中で
真新しい制服を身にまとう奈菜は
まだ何も持っていない
あどけない少女だった。
あれから一年が経つのか……
奈菜にはいろいろなものを背負わせてしまったな。
これからは、何のしがらみもないところで恋をしろよ。
僕は僕の存在に気づくはずもない奈菜に向かって微笑んだ。
その時
奈菜の側に駆け寄る秋山の姿が目に飛び込む。
それから
風花の中で楽しそうに笑いながら
じゃれあう二人。
その姿に
突然、ずっと胸に引っかかっていた想いが怒りとなって
沸々と湧き上がってきた。
なんで、あいつなんだよ!
奈菜もなんでそんな風に笑える?
僕と別れたばかりだろ?
二人で楽しそうにはしゃいで……
ふざけるな!!
「小野先生?」
隣に座っている、僕と同じ英語科の先生が小声で声をかけた。
それにハッと我に返る僕。
どうやら僕は、机の上にある会議の資料をグシャグシャと握っていたようで、
“すみません”と謝ると、
訝る様子の先生を横目に、慌てて資料のシワを伸ばしていった。