僕の愛した生徒
「ねぇ、先生?」
奈菜が僕を見上げて微笑む。
「二人の時は名前で呼べよ」
「うん…秀?」
奈菜はためらいがちに僕の名前を呼んで、頬をピンクに染めた。
もう、奈菜が僕の名前を呼ぶことなんて無いと思ってた。
名前を呼ばれることが、こんなにも幸せなことだと知らなかったな。
奈菜の呼ぶ声に僕の胸は熱くなる。
「なに?」
「浮気のことなんだけどね……」
少し不安そうに僕を見据えた奈菜。
僕はそんな奈菜に
「もう、何も言わなくていい」
そう言って、奈菜の頭を自分の胸に押し付けた。
でも、奈菜は
「きちんと話をさせて?」
と、僕の胸元を両手で軽く押して
一歩後ろに下がった。
「本当はね…浮気なんかしてないよ。
私…嘘をついたの。
そうすることが一番いいと思ったから。
許してくれる?」
そう言う奈菜はやっぱり不安そうな目で僕を見つめる。
そんなこと知ってるよ……
でも、僕は……
「嘘だったのか?」
と、真面目に聞き返し
「ごめんなさい」
申し訳なさそうに謝る奈菜に
「謝らなくていいよ。
何も無かったのなら、それに越したことはない。
嘘で良かった」
そう安心するフリをして、微笑んで見せた。
すると、不安そうだった奈菜の顔に安堵の色が浮かぶ。
そして、それが今度はイタズラな笑顔に変わり
「だって私、前に秀に言ったでしょ?
“何があっても私は秀だけ”だって」
と、奈菜は何故か得意気になっていた。
その奈菜の変わり様がおかしくて
可愛くて、僕の顔にも自然と笑顔が広がる。
どうやら、この一年で随分と変わってしまったと思っていた奈菜は
あの頃と変わらず無邪気なところも残していて、それに何となくホッとした。
そして、僕はそんな奈菜に再び腕を回した。