僕の愛した生徒
それからしばらくして、
奈菜は僕の体から離れ、フェンスに近づいて、下を見下ろした。
僕もその隣に並ぶ。
「桜が綺麗だね」
柔らかく微笑む奈菜と、
校門から続く桜並木を一緒に眺める。
そこには、真新しい制服を着た新入生たちが小さく見えて、
僕はふと、二年前に奈菜を初めて桜の木の下で見かけた日のことを思い出す。
「ねぇ、秀?」
「なに?」
「そう言えば、秀、いつか私に聞いたよね?
英語の授業中に私が窓の外に何を眺めているのかって。
今なら教えてあげる」
「うん…聞かせて?」
僕が奈菜の方を向くと、奈菜は照れくさそうにはにかんで笑った。
「あのね……」
僕たちに降る桜と同じ色に、ほんのり頬を染める奈菜。
「私、初めて秀に会った時から
秀のことがずっと好きだったの。
だからね、秀を見てると、“好き”が伝わっちゃう気がして……
秀を見ないようにしていただけ。
それにね、目が合うと恥ずかしいんだもん」
奈菜はそう言うと、赤く染まった頬を両手で覆い
「私、隠し事下手だし」
と、続けた。
「でも、何でそれを今まで僕にも内緒にしてたんだ?」
「決めてたから……
出逢った時から好きだったことは
秀が私をちゃんと見てくれるまでは秘密にするって」
そう言われると、少しばつが悪い僕。
でも、初めて出逢った時って……
入学式の体育館でってことか?
「僕と初めて会った時って?」
「秀はきっと知らないだろうけど
入学式の前に、私と秀ね、あの桜の木の下ですれ違ったんだよ?
今日みたいに桜がいっぱい舞ってて、
その時の秀がその中で凄くキラキラ輝いてて……
どうしてか、それが気になって、目を離せなかったの。
人生初の一目惚れ?」
奈菜は照れくさそうに笑った後で
ひらひらと舞い落ちてきた桜の花びらを肩に乗せ、穏やかで柔らかな笑顔を僕に向けた。