僕の愛した生徒
「藤岡ー」
僕の板書を無視し、
僕の呼ぶ声にも反応せず
退屈そうに頬杖をついて、
ただ外を眺めている窓際の席に座る生徒。
僕はもう一度呼ぶ。
「藤岡奈菜」
ようやく声が届いたのか
藤岡は語尾を上げながら
「はい」
と返事をして僕を見た。
「この問の答えは?」
黒板を指しながら言うと
藤岡は考える素振りもみせず
ためらうこともなく即答した。
「わかりません」
そのあまりに堂々とした潔い答えに、僕は気持ち良さを覚える。
が、しかし教員の立場としては
次の言葉に一瞬、戸惑い苦笑い。
藤岡はそんな僕の次の言葉を待っているかのように僕を見つめる。
その顔が似ている。
玲香…
僕はその問題の解説をしながら
藤岡に目をやった。
さすがに聞いているだろう。
と思いきや、藤岡は再び窓の外を眺めていた。