僕の愛した生徒


あれから三日が経った。

その間、僕は藤岡に連絡を取れないでいた。



何を話せばいい?

どう接したらいい?


そもそも、藤岡は僕が受け持つクラスの生徒で、

この数ヶ月が間違い…


自分がどうしたいのかさえ分からなかった。



幸いな事に藤岡は以前と変わらず校内で会っても僕に話かけてくることはなく、
また、僕から話かけることも無い。


藤岡とどうしても顔を合わさなければならない教室では

僕は極力、藤岡の方を見ないようにしたし、目が合いそうになれば逸らした。

たまに感じる藤岡の視線にも無視をした。



藤岡と気まずいものの、
明日からは夏休み。


連絡さえ取らなければ、藤岡と顔を合わすことはあっても、ただそれだけで済む。




そして

一学期最後の今日。

長い終業式も終え、

今はHRの最後に渡す事が恒例となっている通知表を、一人一人に声を掛けながら手渡している。



回ってきた藤岡の順番。

僕はいつも通りを装って、
動揺を見破られないように藤岡を呼ぶ。


「藤岡」

「はい」


返事をする藤岡の声は少し弾み、顔には小さな笑顔が貼り付けられている。


席を立ち、教壇に立つ僕に近づく藤岡。


僕の前に立った藤岡は頬を染め、
ほんわかした表情を僕に向ける。


その時、一瞬だけ重なった視線…


僕は直ぐに逸らした。



次の瞬間、藤岡は渡そうと僕の手にあった通知表をスッと抜きとり、直ぐに僕に背中を見せて自分の席に戻っていった。


その背中は僕に何かを訴えかけるように哀愁を帯び、藤岡の歪んだ表情を思わせた。


僕の目が自然と藤岡を追う。


自分の席についた藤岡は、
騒がしい教室の中で誰とも話す事はなく、通知表も開く事なく窓の外を見つめ

もう、僕の方を見ることも無かった。



HRを済ませた僕は教室を出ようとする。


その時、背中に感じた視線。



僕はそれに気づかないふりをして
騒がしい教室を後にした。
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