僕の愛した生徒
「そんなリスクの伴う恋愛ごっこなんて出来ませんよ」
「恋愛ごっこ?」
僕は浅野先生の言葉に思わず聞き返した。
「そりゃそうでしょ?
高校生の“好き”なんて、どこまで本気か分かりませんからね。
特にこの年頃の女の子は大人の男性に憧れやすい…
その対象が身近にいる僕たち教員なんですよ」
もっともらしく話す浅野先生。
「そんなもんですかね?」
僕が尋ねると
「そうですよ。
彼女たちは憧れと恋を履き違えているだけなんです。
それなのに、それをいちいち真に受け、こっちが本気になって、何かのきっかけで関係がこじれてバレでもしたら大変な事になりますよ?
誰からも信用をしてもらえなくなる上、下手したらクビですからね。
“信用失墜行為”プラス、生徒へ対する猥褻(わいせつ)行為でね」
「じゃあ、返事はどうするんですか?」
「そんなものしませんよ」
苦笑いしながらサラッと答える浅野先生。
「それじゃあ生徒が……
気まずくなったりしませんか?」
訊いた僕に対して浅野先生は、
まるでこんな事は日常茶飯事とでも言うように慣れた素振りで答えた。
「今まで通りに接していけばいいんですよ。
ただ僕の場合は、勘違いをされては困るので、その生徒とは距離をとりますがね。
そうすれば、彼女たちも直に気づきますよ。
憧れだったことに……
高校生の恋なんてそんなもんですからね。
まぁ、僕にとって生徒は所詮“生徒”でしかありませんよ」
半ば呆れるように話した浅野先生だったが
“浅野先生〜”と廊下から女子生徒に呼ばれると、そそくさと席を立ち職員室を出て行った。