僕の愛した生徒
翌日
僕は午前中に行っている陸上部の練習に顔を出し、走る生徒に声を掛けながら
でも、視線はそれを飛び越えて、
トラックの中にいる藤岡の姿を追っていた。
たまに交わる藤岡と僕の視線。
藤岡がその度に小さく微笑んでいるように見える。
それに僕の心臓は速く脈打つ。
でも藤岡は次の瞬間、もう僕の方ではなく、真剣な顔でボールの方を追っていた。
その姿を見ながら僕は思う。
藤岡はこんな僕の事を許してくれるのだろうか?
でも例え
許されなかったとしても、それは全て自分自身の責任。
寧(むし)ろ、僕が藤岡にしてしまった事を許してもらえない方がいいのかも知れない。
お互いの為に……
僕が腕時計に目を落とすと、時計の針は既に12時を回っていた。
僕は陸上部の生徒を集め、軽いミーティングをして練習を終わらせた。
トラックの中で練習をしていたサッカー部も、顧問を中心に集まっていて、しばらくするとバラバラと生徒達は散らばっていった。
その中で、選手が脱いだナンバリングを集めていく藤岡。
他のマネージャーも一年生の選手と共に片付けをしていた。
そして、ナンバリングを抱えた藤岡が僕の横を会釈しながら通り過ぎる。
僕はそんな藤岡を呼び止めた。
「藤岡」
「はい」
少し驚いたように僕を振り返る藤岡。
「この後、少し時間あるか?
話をしたいんだ」
「ええ、大丈夫ですよ」
藤岡は生徒の時の顔で返事した。
僕は腕時計に再び目をやり
「じゃあ、30分後に視聴覚室で待ってる」
そう告げると、
それに頷いた藤岡の口元が少し綻(ほころ)びて見えた。