僕の愛した生徒
「秀の家に泊まっちゃダメ?」
「ダメに決まってるだろ」
「……だよね」
奈菜は小さく微笑んで
「じゃあ、秀の家に一番近い駅で降ろして?」
と言った。
「どうするんだ?」
「駅前ならビジネスホテルくらいあるでしょ?」
「一人で泊まるのか?」
奈菜は“だって他に誰もいないでしょ?”と笑い“秀が心配するような事はしないから”と続けた。
「でもな……」
煮え切らない僕に奈菜は
「一晩くらい私だって大丈夫なんだから。これでも一応、高校生だよ。子どもじゃないよ」
と明るく話した。
車はもう30分以上も止まったまま。
雨の強さは激しさを増していた。
「秀、手を繋いでもいい?」
僕が手を出すと、奈菜の手が重なる。
「奈菜、寒い?」
僕の手に置かれた奈菜の手は冷たかった。
「なんで?丁度いいよ」
「奈菜の手、冷たい」
「そう?秀の手は温かいよね」
奈菜は重ねられただけの僕の手を握った。
「そう言えば、秀は知ってる?
手が冷たい人はね、心が温かいんだよ」
「じゃあ、僕の心は冷たい?」
奈菜は首を横に振って言った。
「手が冷たい私には、温かい秀の手が必要なの。
だから、ずっとこの手を温めていてね」