僕の愛した生徒
ようやく車は動き出したが、
時間は既に21時を過ぎていた。
しかもスピードは出ない。
雨も止む気配がない。
家に着くまでに、あとどの位かかるのかな?
普通に走れたなら一時間の距離なのにな。
車内は相変わらず、雨音と微かな音楽だけが聞こえる。
いつの間にか、繋いだ奈菜の手からも体温を感じるようになった。
「奈菜の手、冷たくなくなった」
「……うん」
奈菜は雨音にかき消されてしまいそうな小さな声で返事をした。
「ねぇ、秀?」
「なに?」
「私のこと本当に好き?」
弱々しく聞いた奈菜。
対向車のヘッドライトで浮かび上がった奈菜の顔が寂しそうに見えた。
「突然、どうしたんだ?」
僕が奈菜を見つめると
固まっていた奈菜の顔は突然フッと緩み
「ごめん。聞いてみただけ」
そう微笑んだ。
その顔は優しくて
でも儚くて……
「嫌いなら一緒にいないよ」
その言葉に“そうだよね”と笑った奈菜が窓の外を向いた。
ガラスに映ったその顔は
やっぱり寂しそうに見えた。