僕の愛した生徒
ゆっくりと動き続ける車。
正直、自分の足で走った方が速いだろう。
そんな事を思いながら、欠伸をする奈菜を横目で見たら、
僕にもそれが移る。
「寝てもいいぞ。
いつ着くか分からないしな」
「寝ないよ。
だって、せっかく秀と一緒にいるのに勿体無いじゃない」
奈菜は得意顔で話し、うっすら笑顔を浮かべた。
僕の目にICの緑の看板が霞んで見えて、本当ならば通過する予定のICだが、ここで高速道路を降りた。
そして、カーナビで今夜の宿を探す。
「奈菜、泊まって帰るか?」
奈菜は驚くように僕を見る。
その顔がちょっとお間抜けで、
可愛い。
「嬉しいけど…いいの?」
「いいよ。
ただし部屋は2つ取るから。
さすがに、一晩中、同じ部屋で一緒に過ごすのはマズいからな」
「なんで?」
なんで?って……
サラッと言われてもな。
本当に奈菜はお子様だよな。
「大人の事情」
「どんな事情?」
すかさず聞き返す奈菜は子どもの目をしてキョトンとしている。
「分からないなら、そのまま考えておけ?
とにかく、部屋は別々だからな」
奈菜は不思議そうに頷いて、
でも顔には屈託のない笑顔が張り付いていた。