情の濃い死神と幸の薄い僕の話

男性の顔、いや目を見た瞬間
僕は凍りついたように、動けなくなった。







男の目が真っ黒だったのだ。
うつろとか、そういうのではなく、
じっとみつめたら、その目の中に落ちてしまうんじゃないかと思うくらい。

男の目には、何も映っていなかった。
何も映していなかった。


「あ…あぁ……」


突然、例えようのない恐怖が僕を襲った。
体の震えが止まらない。


「どうしたんだい?」


男が心配そうに、僕の顔を覗き込む。
低く、感情のこもっていない声だった。

よくわからないけど
僕は、この男のことがとても恐ろしかった。
今すぐ逃げ出したいのに、体が硬直してしまって動かない。


「ずぶぬれじゃないか。
 寒いのかい?随分震えているようだが…」



そういって、男が手を伸ばして僕の肩に触れた。

 



< 8 / 9 >

この作品をシェア

pagetop