甘い恋には遠すぎて
フッと彼女が体の力を緩めた。
俺は離すまいと更に腕に力を込めた。
『離してよ……迷惑だって言ってんのがわからないの?』
冷たく、低く、腹の底にズドンと響くような声だった。
まさかの言葉に一瞬たじろいだ隙に、俺の腕からするりと抜け
−パシィィィ−−ン−
思いっきり左頬を平手打ちされた。
痛みなど感じない。ただ寒空の下に渇いた音だけが響いた気がした。
夏稀は怒りなのか、なんなのか今にも泣き出しそうな表情で俺を見て
『いい加減わかってよ、もう全て終わった事なの
!迷惑なの!』
吐き捨てるようにそう言うと今度は、俺に背を向けてゆっくりと歩き出した。
さすがの俺も、もう後を追う気力がなかった……。