レンアイ 遊興
「名前くらい聞いとけばよかったのに」
そうなんだよ。
私、唖然としちゃって、名前聞くよりお礼すら言えてないのだから。
唯一、その人が着てた制服がたまたまお兄ちゃんと同じだったから、すぐに桜井学園高校だってわかった。
だから私は、その人に会えるっていう期待をして、ここ、桜井学園高校を志望校にし、今通っているのだ。
顔も雨であまり見えなかったし、名前も知らないのだから、もう秋になろうとしている今でも見つからないのには、当たり前と言ってもよいものである。
あー名前くらい聞いとけばよかったよ。
なんて今さら後悔したってもう遅い。
「でもかっこいいよね〜」
「え?」
「だって、有無も言わさずびしょ濡れの乙女に傘を突き付けて、雨の中去って行ったんでしょ?
しかも名前も名乗らないヒーロー、なーんてかっこいいじゃん!」
乙女って…私の事?