プラトニック・ラブ




あたしを見るなり2人は笑顔で言った。



「あ、た、ただいま」



結局〝ただいま〟しか浮かんでこなかった。


英二さんは笑顔のまま笑っていたから、別にこれでもいいのかもしれないと思った。



お母さんはあたしを手招きする。


あたしは導かれるようにお母さんの前のソファに腰掛ける。



「………」



正直、ソファに座るって緊張する。



ソファなんてあたしの家には無縁だった物。


小学生の頃呼ばれて校長室に行ったのに誰もいなくて、チャンスと思って座り心地の良さそうだった校長の椅子とソファに座ったことはある。


あったと言ってもその程度。



そんな物にどっかりと深く腰掛けることができるお母さんを、あたしは尊敬者として称えることにしよう。



「飲むー?」



そう言ってこっちに差し出してくるティーカップには、美味しそうな紅茶が入っていた。



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