プラトニック・ラブ




迅を見ることなく、あたしは黙々と食べ続ける。


怒ってるくせにバクバク食べてるあたしの姿が滑稽なのか、迅の笑い声は止まらない。



それでも腹が満たされていくにつれ、迅に申し訳ないことをしてしまったような気がしてきた。



料理を作るのはあたしの仕事。


迅に養ってもらってるのに、こういう態度はないのかなぁなんてあたしなりに考えて思った。



いかにも食べ物じゃないような物を作ってきたら言わないけど、仕事一筋っぽい迅がここまでちゃんと作ってきてくれたとなると話は別。



一旦手を止め顔を上げる。



「………ありがとう」



唇から零れ落ちたかのようにボソっと呟いたあたしの声に反応した迅は、



「今度から俺も料理手伝おうかなぁ」



なんて珍しいことを言ってきた。


お茶の入ったコップを「飲む?」差し出してきたから有難く受け取ると、ゴクリと一口飲んで訊き返した。



「…手伝う?」



当然ビックリするにきまってる。



櫻井グループの息子がキッチンに立って料理を手伝う?


それこそそんなことが世間にバレでもすれば、間違いなくあたしは処分されるだろう。



い…命の危機!!



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