少女の頃
花梨はとても気さくな人だ。お笑いが大好きで、私とはけっこう話があう。彼女も私と同様、いろいろな人と仲がいいが、人のことは呼び捨てするし、なにより彼女には彼女のかけがえのない親友がいる。そこが私との決定的な違いだ。うらやましいと思う。
「すてらさ、なんで人のこと呼び捨てしないの?」
「…なんとなく…」
「ふーん。ほら、三年間も一緒だったしさ、呼び捨てぐらいしてよ、すてら。」
「うっ…」
なんというか、そのえっと…
「ほら、早く!」
「えっえっ…」
彼女がじっとこっちを見ている。
どうして私は呼び捨てという簡単なこともできないんだろう。なんだか情けなくなってきた。
彼女はどうやら私が呼び捨てするまでここにいるつもりのようだ。
そこまでしてくれるのなら、私はそれにこたえたい。
ありったけの勇気を振り絞った。
「か…花梨!」
言えた。自分の顔が紅潮していくのが分かる。耳まで熱い。
「おおっいいねぇ!呼び捨て!これからそう呼んで!!」
彼女は私の肩をポンっと叩くとどこかへ行ってしまった。
だめだ、涙がでそうだ。私はまわりの人に涙目に気付かれないように、机に突っ伏して寝たふりをした。
心にあいた穴が、少しふさがったような気がした。

Fin
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