─仮面─偽りの微笑み

ただ快楽に身を任せ、情事に溺れているんじゃない。



彼女だからこそ…酔いしれ、溺れていくんだ。



共に果てた後ですら、余韻に浸る間もなく欲しがる俺に、虚ろな瞳で答えてくれる繭璃。



蝶が、花の蜜の甘い香りに誘われるように、俺もお前に誘われるんだ。



「ごめんな…」



「ううん…謝らないで…ください…わたし…うれしいですこんなに求められて…」



幾度となく昇りつめ、ぐったりとその身体を横たえた2人。



棗は満ち足りていた、好きな女を抱く…それがこんなにもいいものだと思ってもみなかった。



心も身体も満たされた2人は、絡まるように抱き合い静かに瞳を閉じた。



───…
──…



「……ん…?」



重い瞼を開け、気怠い身体をゆっくりと起こすと、薄暗かった辺りが突然″ぱぁっ″と照らし出された。
< 180 / 268 >

この作品をシェア

pagetop