─仮面─偽りの微笑み
「棗さん…」
棗から何の連絡もなく過ぎていく日々。
繭璃はただ遠くを見つめ愛しい人の名を呼ぶことしか出来ずにいた。
突然訪れた出来事に心がついていかない。
「お見合いは本当らしい…婚約するって」
美麗にそう言われ、繭璃は「…そう」ただ一言呟いた。
『会いたい…』
二度と心を通わす事が無いとしても…。
気を許せば溢れそうな涙を、ぐっと我慢するしかない。
泣けば前に進めるの?
彼を忘れられるの?
棗からは何の連絡も無い。
サヨナラも言い訳も…。
辛い顔は皆を心配させるだけ。
『私は大丈夫!棗さんが幸せならそれでいいの』
そう言って笑ってみせた。
その作り笑いが、余計に美麗の心を痛めていたと知らず。