─仮面─偽りの微笑み

ひらりと壇上から飛び降りた棗。



目指す先を真っ直ぐに見つめ、ゆっくりと歩み出した。



皆黙ってその行方を見守っていた。



「繭璃…」



棗は、呆然と立ち尽くす繭璃の前で立ち止まり、彼女を引き寄せその胸に閉じ込めた。



「お前の泣き顔なんて…誰にもみせてやんねぇ…ったく、今日の繭璃可愛すぎ」



「ふぇっ…」



知らず知らずのうちに涙は溢れ、繭璃の頬を濡らしていた。



いつもの腕の温もりと、棗の香りに包まれ繭璃はほっと安堵し、涙の量は増すばかりだった。



「だぁー泣くなって…」



「だっ…てぇー…うぇっ…うっ…ぐすっ」



「よっ…と!」



「へっ?!…」



繭璃を横抱きし、顔を胸元に隠して、棗は会場を後にすべく声を上げた。
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