刑事の秘めごと~仮面編~


「……なぁ…」


花火を見上げていると、灰が気まずそうに口を開く。


「あ?」

「…平気か…?」


灰は心配そうにあたしを見つめた。灰の瞳は…いつも真実しか映さない。


真っ直ぐで…あたしの心の中さえその瞳に映し出されてしまいそうで…。


……恐い。
あたしはこいつに知られるのが恐い。


あたしの醜い感情を…綺麗なこいつには知られたくない。


それを知れば………。
お前は離れて行くだろ?



「枝真」

「…な…何だよ……」


不意に名前を呼ぶから…心臓が跳ねた。


最近灰はあたしを名前で呼ぶ。今までは枝だったのに…。


「お前…今回は止めておけよ。無理する事なんかねぇよ…。あんまり自分を追い込むな」


灰の手が、優しく癒すようにあたしの髪に触れる。


「…灰…」


あたしはただ名前を呼ぶ事しか出来なかった。


辛いだとか、苦しいだとか…。あたしはそれを口に出してはいけない。


一人で堪えて、菜野香と同じ痛みを背負って生きていくって決めたから…。


痛みはあたしが憎しみを忘れない為の鎖。



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