刑事の秘めごと~仮面編~
「…ろよ……」
花火の音が止んだ後、かろうじて聞き取れたのはこの二文字。
「…今、何て?」
聞き返してみても、返事は返ってこない。そればかりか、この話しは終わりと言わんばかりに、あたしから体を離す。
「…まぁ…この件に関わるなって言っても…お前は聞かないんだろうけどな…」
灰はそう言って小さく笑った。
「良く分かってんな。あたしは…この件から身を引く気なんてねぇよ…」
藤井とも約束しちまったし…。なにより、あたしも過去と向き合いたい。
どんなに辛い物があたしを押し潰そうと、強く在りたいんだ…。
「…忘れるなよ…。俺も…特捜の奴等も、お前の傍にいる」
「…あぁ…心強いよ」
灰に笑顔を向けると、安心したのか、肩の力を抜くのが見えた。
本当に…お前達がいて心強い。特捜に配属されて良かったと思ってる。
菜野香……ごめんな…。姉ちゃん、少しだけ誰かに頼っていいか…?
今は…今だけは…。誰かの温もりに触れる事を許して…。
もう一度空を見上げる。
そこにはもう、綺麗に咲き誇っていた花は無く、真っ暗な空を月だけが静かに照らしていた。