黒猫*溺愛シンドローム
「もう、私に近づかないで。
さ…触ったりなんかしたら、警察に通報してやるんだからっ」
……ふっ。
なんか、つい笑ってしまった。
だって……
「なっ…なんで笑うわけ?ひ…人が真剣に……」
真っ赤になって、なんだか一生懸命叫んでいる。
その姿はもう、可愛くて仕方ない。
「ごめんね。でも……」
「ちょっ……」
傘をたたんで、端によけて。
そっと近づいて、ブザーを握りしめる彼女の腕を掴んだ。
「浅海さん?防犯ブザーって言うのは、
不審者に会ったときとか、危険を感じたときに、助けを求めるために鳴らすんだよ?」
子供を諭すみたいに言って、にっこり微笑みかけた。
「……知ってるよ。」
むっとしながらも、俺の手をふりほどこうともがいている彼女。
「だったら、必要ないじゃない。」
固く握られた指をほどいてブザーを奪って、代わりにきゅっと自分の手で包みこんでみた。
「なっ……」