黒猫*溺愛シンドローム
「…うわぁ。」
目の前に広がった空間に、私は思わず声を上げてしまった。
こんな場所、あったんだ……
澄みきった空。
新鮮な空気。
ぽかぽかの日射し。
何より、この静けさ。
人がいないってだけで、私にとっては高ポイント。
ここなら、何も気にせずゆっくり眠れるはず……
「どう?気に入った?」
……って、無理じゃん。
手放しかけた意識が、たちまち現実に連れ戻される。
「絶対、気に入ると思ったんだよね。」
振り返れば、
「また来たくなったら、いつでも言ってね?連れてきてあげるから。」
声の主が、銀色の小さな鍵をちらつかせながら、にっこり微笑んでいた。
それは、紛れもなくここの鍵で……
本来ならば、手に入るものではない。
「あ。でも、誰にも言っちゃダメだよ?
浅海さんと俺と…2人だけの秘密だからね?」
そう言って悪戯っぽく笑うと、
――ガチャン。
“王子様”は、後ろ手にドアの鍵をかけた。
……密室、完成。