オリオールの乙女
はしごを登りながら脳裏に浮かんだのは、オリオールの聖地だった。青空いっぱいに浮かんでいるこの雲の切れ端から、オリオールの一端でも見えないのだろうか。
そんなことを考えているうちに、いつしか屋根にたどり着いた。
「わあ……!」
ノエルは思わず声を漏らした。風がさあっと吹いた。目の前に広がったのは、ルカッサの街並みと、とてつもなく広い海だった。
少し遅れてあの青年も屋根にたどり着いた。最後に彼は、そのはしごを思い切り蹴飛ばした。途中まで登ってきていた人攫いが、あっけなく地上に転がった。
「高いところは好きか?」
海に見とれているノエルに、彼は声をかけた。ノエルが振り返ると、そこには切れ長の目を優しくさせている彼がいた。
二人の瞳がばちりと合った。
合った瞬間、デュタ星がバチッと散った感覚がした。
「もっと面白いものを見せてやるよ」
青年はそう言うと、ノエルの手をひいた。
「この屋根を思い切り走れ。怖がるんじゃないぞ」
彼は言い切らないうちにノエルの手をひっぱった。屋根の上は安定しない。体はぐらぐらと揺れながら屋根を駆ける。もう、屋根の切れ端だ。
「落ちるわ!」
ノエルは悲鳴のように叫んだ。