オリオールの乙女
「マジャッラさ。コアトルっていう生物で、本当は竜なんかじゃない。蛇の仲間だ」
「コアトル?聞いたことないわ」
「だろうな。この国にはいないから」
「あなたはどこから来たの?遠い国?」
「ああ、エルタニンという島国さ」
「エルタニンの民なのね!」
ノエルは全てが合致したように納得してみせた。彼の黒い髪や瞳、浅黒い肌もエルタニン独特のものだからだ。
「危ない!」
急に彼が叫んだかと思うと、ノエルは次の瞬間、彼の胸の中に包まれるようにして収まっていた。
ノエルの胸が、どきりと弾んだ。彼の太い腕、がっちりとした体つきがノエルを守るようにして包み込んでいる。
「野鳥の群れだ」
青年が、ノエルの耳元でそう言った。吐息がくすぐったい。
「ほら、もう大丈夫だ」
彼は両手を緩めた。ノエルは我に返るととっさに彼から体を離した。目の前には、大量の野鳥の群れが大空を裂くように飛んでいた。