オリオールの乙女
中に入ってきたのは、マーレという老女と新入りの召使いだった。
「まあ姫様!」
マーレは中に入るや否や、ノエルを見て顔をしかめた。マーレはディディエが幼い頃から城に仕えている、てきぱきとした女性だった。
ノエルは、マーレは好きだったが、彼女の小言は、散歩の途中の夕立くらい嫌いだった。
それでもマーレが好きなのは、夕立がすぐ去るのと同じように、マーレの小言は後腐れないものだったからだ。
ノエルはまた叱られる、と身をすくめた。
「何ですその格好は!ルカッサの姫君とあろうものが!」
見れば、ノエルがプリンセスであることがバレないようにと身に着けた地味な紺のドレスが、泥や埃で汚れていたし、裾はぼろぼろだった。
人攫いに遭って逃げ出して、コアトルに乗って空を飛んだ、などと口が裂けても言えない。
「まったくそのおてんばは誰に似たのでしょうね。ディディエ様とは正反対」
マーレはそう言うとドレスのファスナーを下げ、一気にドレスを脱ぎ剥がした。