オリオールの乙女
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舞踏会が始まった。この日の舞踏会は、ルカッサの友好国、ケールニア共和国を初め、マルセル王国やイヴァン帝国から客を招いた大きなものだった。
「ご機嫌うるわしゅう、プリンセスノエル」
一人の金髪の青年が、ノエルの元へやって来た。
「ごきげんよう。ケールニアの方かしら」
「ええ。レイジェス=ブリセーニョと申します。以後、お見知りおきを」
レイジェスはそう言うと、サファイアのような曇りなき青い瞳でノエルを見、微笑むと去ってしまった。
「やったじゃない、ノエル様!」
彼と入れ違いに、小太りの貴婦人が興奮したようにやって来た。
「あの方をご存知?」
「もちろんよ。レイジェス様といったら、英才大国ケールニアのトップの人よ。あの方だったら、プリンセスともお似合いだわ」
そう言って目を輝かせる貴婦人の隣で、ノエルは興味なさそうにふうん、と呟いた。
その時ノエルをかすめたのは、ケールニアの紳士的な英知さではなく、異質なエルタニンの潮風だった。