オリオールの乙女
◇
「おお歌よ 乙女の歌よ 太陽をかすめ 鳥の如く飛んでゆけ 遠い国境の若き兵士の元へ 彼女の想いを届けるのだ」
昼間の広場、人々は楽器を取り出し陽気に歌っていた。今日はカスィオン第二月の六の倍数の日。つまりは休日なのだ。
もっとも休日でなくとも、気を抜くと彼らはこうしてすぐに歌いだしてしまう。
カスィオンは育ち、という意味で、ようやく種まきが終わり、収穫までの束の間だった。
陽気な音楽が流れる中、一人の乙女が心地よい風の中を軽快に小躍りしながら歩いていた。
時折、テンポのよい風が藍色のドレスをひるがえす。真っ赤なヒールが、レンガを軽く蹴った。
トレードマークのシルバーの髪を上げ、かっちりとしたハットを被る。ルカッサのプリンセス、ノエルであることが知れたら大変だ。
それでも彼女はこの下町に出ることが止められなかった。多分、大人たちが仕事終わりにワインを堪能するのと同じように。
もっとも、彼女はまだ十八なので、ワインを飲むことは許されなかったのだが。